取材:種藤 潤
都市テクノは「総合解体」を主体に、「測量・調査」「不動産マネジメント」を手がける企業である。「デベロップメント事業部」として社会貢献につながる事業も行っており、2020年からは、次世代と連携した「まちづくりプロジェクト」を開始した。根底には、同社代表が思い描く、これからの時代の企業と社会貢献のあるべき姿があった。
文京区根津2丁目、地下鉄根津駅から徒歩約5分。「下町」と呼ばれる古き東京の生活感が漂う住宅街の一角に、2022年3月30日、『まちの学び舎 ねづくりや(以下、ねづくりや)』がオープンした。新築マンションの1階、木目が美しいシンプルな構造の空間で、「1:飲食」「2:物販」「3:場づくり」の3つの機能を持つ。
「1:飲食」は朝・昼・夜・カフェタイムと、根津周辺に暮らす人たちの生活スタイルに合わせたメニューを提供。生産者の顔が見える食材を使い、スタッフが手作りしている。なかには根津で親しまれてきた惣菜店の復刻メニューもある。
「2:物販」では、周辺に暮らす人が必要なものとともに、思わず買いたくなるものをテーマに、日本各地から食品や雑貨をセレクト。あえて東京では手に入りにくいものを選び、作り手の想いをPOP等で伝えながら、楽しく買い物ができるようにしている。
「3:場づくり」では、根津の歴史や文化を学ぶトークイベント「ねづがたり」や、実際にまちを歩いて地域の魅力を体感する「ねづあるき」などを企画。根津に暮らす人たちが集い、根津に潜んでいる資源や価値を再認識、共有するとともに、地域の人同士がつながることで、より楽しく暮らせるきっかけづくりになる場を目指す。
運営は、株式会社都市テクノと武蔵野美術大学が事業連携する「株式会社ライブライフ」が担う。組織のトップは、数々のまちづくり再生の経験のある同大学の若杉浩一教授だが、実質的な運営は、同大学卒業生であり若杉ゼミ出身のプロジェクトディレクターの鶴元怜一郎さんと、主に飲食事業を担当するディレクターの金光良太さんが中心となって行っている。
『ねづくりや』という名前には、少子高齢化、人口減少が進む「ねづ(根津)」のまちの再生という意味とともに、まちと暮らす人の「ね(根)っこ」に気づき、学び、つながれる場づくりを目指す想いも込められている。
「土がなければ根が張れない。根が張れなければ花は咲かない。まちも同じで、豊かな暮らしを支えてくれる無数の根っこがあることを、私や金光は根津のまちのなかで暮らすことで気づきました。逆に、その根っこと向き合い、人と人とがつながることで、その地域が抱える課題解決にもつながることも知りました。その起点となる場所は、根津や東京に限らず、全国各地で必要になっていくと思います。『ねづくりや』は、そのモデルケースになっていきたいと思います」(鶴元さん)
『ねづくりや』の始まりは、2019年、鶴元さんと金光さんを含む大学生4名が、『ねづくりや』が建つ場所にあった築60年の古民家を自分たちでリノベーションし、学生寮代わりにシェアハウスとして暮らし始めたことだった。
「地域の大半が高齢者で、生活の中で我々若者がサポートできることは積極的にしていきました。一方で、我々が困っていることもサポートしてくれたりして、親戚のような支え合う関係ができあがりました」(金光さん)
その後、シェアハウスを『ねづくりや』と名付け、家賃を捻出するためにレンタルスペースとして提供。並行して、イベントも企画し、地域内外の人たちが集まり、繋がれる場づくりが、自然と定着していった。
しかし2021年に入り、彼らも就職を考える時期に突入。同時に、根津地域の再開発により『ねづくりや』の建物が取り壊され、新築マンションが立つことが決まった。そんなとき出会ったのが、都市テクノだった。
「若杉教授の紹介で、島村代表取締役とお話ししたのが2021年の夏です。そこでかつての『ねづくりや』を土台に、新しいまちづくりの構想をお話ししたところ、ぜひ一緒にやろう、と言っていただきました」(鶴元さん)
都市テクノは2009年創業。「解体事業」を主体に「測量・調査」「不動産マネジメント」と事業領域を広げてきた。一方で「デベロップメント(開発)事業部」を設置し、本業と関連のある「空き家・空き地ビジネス」「駐車場ビジネス」に加え、「飲食」「電気自動車」など新規事業にも積極的に取り組むこととした。そこには「社会課題の解決」という想いも込められていた。
「空き家・空き地の問題は、全国的な課題ですが、特に東京都市部は深刻です。また、地球環境のことを考え、電気自動車事業にも投資を始めました。他にも、国内外問わず義援金の寄付などを行い、社会課題解決につながることを可能な限り行っています」(島村代表取締役)
鶴元さん、金光さんと出会い、『ねづくりや』構想を聞いたとき、すぐに応援しようと決めたという。
「今までのまちづくりにはないアイデアが豊富で、一方で、下町育ちの私が大事にしたい部分もあり、とても面白いと思いました。面白いことに人は集まり、そこに事業は自然に生まれるものですから」
とはいえ、二人は経営の素人。その点は島村代表取締役と同社デベロップメント事業部がバックアップした。だが、結果は性急に求めず、しっかりとモデルケースとしての機能を高めてほしいと、島村代表取締役は願う。
「これからの社会を担う次世代が中心となって、どんどんチャレンジしてほしい。その埋め合わせをするのが、前の世代の我々の使命だと思っています。それに、このプロジェクトが定着すれば、遠回りかもしれませんが、解体や不動産など、我々の本業の『ねづくり』にもなる可能性があります。ただ、何より大切なのは、社会を良くしようとする我々の姿勢を知ってもらうことです。特に持続可能性やSDGsなどが求められるこれからの時代、企業はそうした理念や想いと行動で選ばれるようになると、私は確信しています」